TOP > 連載 > 銀行員が知っておきたい会計話

第3回 関係会社株式を売却したら、連結と個別の売却損益|銀行員が知っておきたい会計話

著者:公認会計士 井口 秀昭

前回は連結財務諸表において、子会社と関連会社でその表示にどのような違いが生じるか、あるいはどういう点が同じなのかということを説明しました。
今回は、そのテーマを発展させ、関係会社(子会社及び関連会社)株式を売却したとき、連結財務諸表と個別財務諸表でその売却損益がどのように変わってくるのかということを説明します。

間違いやすい考え方

含み益のある株式を売却して利益を計上するということがよくあります。皆さんはその売却したときの売却損益が連結と個別で同じなのか、あるいは違うのかということを考えたことがあるでしょうか。個別財務諸表で株式売却損益が生じれば、いつの場合でも同じ金額が連結財務諸表でも発生すると考えていないでしょうか。
同じ株式を売却しても、株式売却損益の発生は連結と個別でいつも同じであるとは限りません。同じか違うのかのポイントは売却する株式によります。関係会社以外の一般の株式を売却すれば、連結でも個別でも同じ売却損益が生じます。しかし、関係会社株式を売却すると、連結と個別では売却損益が変わってきます。

以下では関係会社株式を売却したときの、売却損益の財務諸表における表現方法を関係会社のうちの関連会社を取り上げて、説明します。関連会社を取り上げるのは、その方が理解しやすいからであり、基本的考え方は子会社でも変わりません。

関連会社株式の簿価は個別では変わらないが連結では変動している

個別財務諸表上では関連会社株式は、時価が著しく下落した場合を除き、原則として取得原価で評価します。したがって、関連会社がどんなに好業績を上げて、その株式価値を上昇させても、親会社の個別財務諸表ではその価値の上昇は表現されません。それは含み益という形で簿外で所有することになります。その含み益が財務諸表上に表現されるのは、その関連会社株式を売却したときです。含み益のある関連会社株式を売却すると、個別財務諸表上では関係会社株式売却益が計上されることになります。

一方、連結財務諸表では、関連会社株式(連結財務諸表では投資有価証券として表示されています)の簿価は、その関連会社の経営成績に応じて変動しています。したがって、関連会社が業績好調で利益を上げていれば、関連会社の利益剰余金は増加していますから、その増加分のうちの親会社持分に相当する金額は関連会社株式勘定に決算の都度取り込まれているのです。つまり、関連会社の業績は適時に連結財務諸表における関連会社株式の簿価に反映されています。

連結上の関連会社株式の簿価は、その関連会社の帳簿上の純資産額に対応しています。したがって、関連会社株式の売却価額が関連会社の帳簿上の純資産によって決定されれば、連結上は株式売却損益は発生しないことになります。しかし、その関連会社株式を売却するときの売却価格は、必ずしもその会社の帳簿上の純資産額に一致するわけではなく、高くなることも低くなることもあります。その結果、業績のいい関連会社の連結上の簿価は高くなっていますから、その関連会社の株式を当初の取得価格より高く売って、個別財務諸表上では利益を計上できても、連結では売却価格が簿価を下回り、損失が発生するということがあるのです。

設 例

言葉だけで説明すると分かりにくいので、簡単な設例で考えてみます。
(1)取得関連会社B/S
総資産 200 総負債 100
  資本  100
(2)売却時関連会社B/S
総資産 300 総負債 100
  資本  200

ある会社が(1)の会社の株式40%を40で買取り、関連会社としたとします。このときの関連会社株式の簿価は親会社個別も連結も40で変わりません。
その関連会社が順調に収益を上げ、(2)のような状態になったとします。このときも、個別財務諸表における親会社の子会社株式の簿価は取得原価の40で変わりません。しかし、連結財務諸表における関連会社の簿価は、(2)の資本勘定の親会社持分に相応する金額になりますから、連結上の関連会社株式の簿価は200×40%=80になっているのです。つまり80-40=40は連結財務諸表においては利益実現済みなのです。
この関連会社株式を60で売却したとします。すると、個別財務諸表では簿価が40ですから、売却益が20出ますが、連結財務諸表では簿価が80ですから、逆に売却損が20出ることになるのです。つまり、連結では関連会社の期間損益をその都度取り込んでいるのに対し、個別では期間損益を取り込んでいないので、その分も売却時点で計上されることになるのです。

関係会社(子会社および関連会社)株式売却の財務諸表に与える影響

関係会社株式を売却すると、株式売却代金が入ってきますから、キャッシュフローとしては個別財務諸表上も、連結財務諸表上も確実にプラスになります。しかし、損益的には、取得価格より高く売れるから個別では利益が出るといっても、連結上は必ずしも利益が生じるわけではありません。連結財務諸表では適時に関係会社業績を決算に取り込んでいるのですから、関係会社業績がよければ連結上の関係会社株式の簿価は上昇しています。連結上の関係会社株式売却にかかる損益は、その売却価格が連結上の関係会社株式の簿価に対応している関係会社の純資産価格に比べてどうなっているかによるのです。
もし取引先が関係会社株式を売却して個別財務諸表で売却益を計上したと聞いたら、では連結財務諸表ではどうなるのかと質問してみましょう。場合によって個別では利益を生んでも連結業績の足を引っ張ることもあるかもしれませんから注意が必要です。