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第4回 続・聴き合わせの効用 ~人間は正直者~|企業審査あれこれ

著者:ペンネーム シニアアナリスト

金融機関に限らず、実業界に於いては広く関係先の実態、風評等を自ら確認する意味でヒアリングをすること、且つ聴き合わせに依って複数の情報源から角度を変えた実態確認を行うことが重要であることは前回お話した。自身の銀行審査業務の経験からも利害が一致する人びとからの意見に対して、逆の立場の人たちからのコメントをそれなりに組み合わせて聴き、判断することの重要さと確かさは度々実感して来ている。では、こうした判断のバックボーンと云える人間の誠実さや正直さについて考えてみたい。

自身は銀行の審査業務を通じ、実務担当として、また審査管理職として、数多くの企業審査や業界調査の案件に携わって来た。調査・審査の対象企業だけでも実務に従事している人から経営陣まで多くの役職員とのミーティングを行い、その裏付けとして業界ヒアリングにて、より多くの関係者と意見交換する機会を得て来た。自身のこれまでの経験を省みると、人が質問を受けた場合の対応の姿、本質について次のような印象を持っている。

  • 国内外を問わず事前にヒアリングの趣旨を正確に伝えれば、誠実に応じてくれる。
  • 聞き手に回る(最初から自分の考えを前面に出し過ぎない)ことで本音が聴ける。
  • イエス・ノーの質問ではなく、何故・どのように問いで詳細な答えが引き出せる。

前回話題としたアジア各国での華人企業への調査の例では、邦人、欧米人、現地の人びとを含め、延べ50人以上の企業人との面談を重ねたが、事前のアポイント依頼と趣旨説明に反して、ヒアリング目的と無関係なやりとりとなった事例(意図的に答えを外した例)は唯の一件であった。ヒアリングの場所が海外であったことも有利に働いているが、邦銀及び外銀の駐在員等、ヒアリング依頼人が競合者の銀行であるにも拘らず、本音が聴けたことには驚きと云うより人間の有難さ、正直さを強く感じた次第である。また、このような真摯な対応を多く重ねて来ると、逆に上辺だけを繕って本音を隠している場面に遭遇した際には自然に偽りであると感じられるようになるから面白い。銀行員のプロフェッショナルな部分は財務分析であり、数値に強いと云うことであるが、人柄を見極める術も業務の中で磨くことがそれなりに可能なような気がする。真偽が感じ取れるのであれば、調査の然り方もそれに応じて応用が効く。訝しいと感じた対象をいつも以上に詳細に調べ、周囲でのヒアリングにも留意する。丹念に調査することで一層不審な点も目に付くといった循環のケースになれば、その効果は大きいと云える。
無論、不可解な印象だからと云って面談態度が粗雑になることがあっては社会人・企業人として失格であろう。また、自らの利害とは関係ないケースが多い金融機関のヒアリングに協力してくれた方々への礼状が速やかに礼を尽くした形式で送達されるのも当然のビジネスマナーである。