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第2回 定性評価とは |審査チェックポイント[銀行員ドットコム]

定性評価とは

 金融機関が、企業との取引を検討する際に確認する事項として、「定性評価」及び「定量分析」の両側面は、企業の成長ステージ毎にそのウェイトを調節する必要がある。また、ベンチャー企業から成長途上の中堅クラス迄の企業を対象に定性評価の重要度が高い。以上のアウトラインについては前号で説明した。本号では、定性評価を具体的なレベルで考えてみたい。

 企業の定性的なファクターとしては以下の要因に分類される。各々の項目は、個別な側面と相互に関連する面とを有しているため、個々について考えると同時にその関連性を確認することも必要である。

 定性評価と定量分析とのウェイトに企業ステージが関連したように、定性要因の各項目の影響度合もステージに依る若干の違いがある。

●定性要因

(1)企業に属するもの
■経営者、経営陣の性格・資質、業界経験・知識
■株主の構成及び変遷
■従業員の特質(年齢構成、仕事キャリア)
■創業よりの事業の沿革(経営の変遷等)

(2)外部の関係者や法人に属するもの
■外部関係者(会計士・監査法人、弁護士等)
■経営者、経営陣の交友関係者
■取引金融機関(銀行、証券等)
■主要な取引先(販売・仕入先等)

(3)業界及び市場に関する事項
■業界の特徴(成長性、収益性、規模等)
■市場環境(規制、参入障壁、海外市場等)

 ベンチャー企業を見る上では、経営者の特質、技術やビジネスモデル上の知識や運営力、初期資金の出し手である株主の評価と姿勢が最も重要である。次に、株主をも含めた経営チームと云える経営陣、従業員の資質へと続くのは当然である。また、新興株式市場の発足が追い風となり、創業後の間もない時期から監査法人等の関与を受けることも昨今では多く、経営チームの中に監査法人が加わる例も散見され、念頭に留めるべきである。事業の拡大に応じて通常取引が進む中で「企業の属するもの」からより事業に関わる事象(取引先等)へと評価のポイントが移行するのが一般的ではなかろうか。

 但し、業界との位置関係については、ベンチャー、中堅の別に拘わらず重要であり、入念な情報収集とそれに基づく判断、評価を心掛けるべきである。やや散文的な既述が多く論点が不明瞭となるのを避けるため、敢えて多少の誤謬を承知の上で項目別に評価に係る姿勢や留意事項を整理したい。

●経営陣

 起業の背景、きっかけ及び過去の事業履歴は重要。敗者復活を否定はしないが、過去の事業的失敗は留意すべき事象。ワンマン度、相談相手の有無も重要で、社長以外の役員や社員の社長評は有益。

●経営チーム(株主、監査法人等)

 株主はステークホルダーとして当然ながら、監査法人及びIPO(*1)に向けた幹事証券会社も相互の守秘義務に抵触しない範囲では、企業の発展を望む点で利害は一致しており、情報交換は有効。

●経営者と交友のある企業経営者等

 交友ある経営者の企業が自身の銀行取引先であることが理想的。人間は根が正直で交友ある経営者の窮状、リスクには何らかの反応を示すことが少なくない。(反応を示して注意を引きたい銀行か否か、反応を見逃さない眼力が持っているかが、当然の前提条件。)

●業界他社(取引先、競合他社等)

 ややもすると、銀行が取引先の状況を他社に聴くことは風評リスクそのものと、極端に控える姿勢を眼にするが、次記スタンスでヒアリングすれば誤解を生まず、業界理解を深めることは充分可能。

●取引先

 訪問趣旨を守秘義務の範囲内で明確に事前伝達。会社紹介では質問上の禁則事項を事前に確認。自社ルートでは個社名を挙げずに業界質問等でヒアリング実施。

●業界他社等

 訪問趣旨とヒアリング内容の守秘取扱いを明確に伝達。主要企業や有望先の状況を聴く姿勢で。 ヒアリングに依る聴き合せは定性評価の必須業務。他社の評価(経営陣、取引振り等)や企業の施策と業界の課題、対応の流れを掴むことは経営者の力や企業の事業展開力を測るマイルストーンのように感じられる。