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第5回 定量分析の三種のツール -その1-

企業の財務分析を有効に行うための準備としての「財務諸表を読む三原則(重要性の原則、継続性の原則、特殊性の原則」や定量分析をスタートするための「三種の神器(実態貸借対照表、実質期間損益、キャッシュフロー計算書)」について理解を進めて来た。本号から数回に亘り、基礎的な財務分析ツールについて、基本概念とその活用法を説明して行きたい。表題の「三種のツール」とは、損益分岐点分析(固定費・変動費分析)、付加価値分析(生産性分析)及びキャッシュフロー(資金移動表、資金運用表、資金繰り表)のことである。企業審査に於ける財務分析(定量分析)に不慣れな、または取り組みを開始する人にとって、同分析は専門性が求められる業務のように、逆に幾分か同業務や財務分析を経験した人にとっては基礎的過ぎるように、感じられるかも知れない。然し、答は何れも「否」である。以下、説明を進めることとしよう。

【損益分岐点分析と云うツール】

一般的な損益分岐点の概念は下記の通りである。費用(固定費)と収益(限界利益)とがバランスする売上高を損益分岐点売上高と定義する。

昨今の企業リストラの経済記事に於いても「損益分岐点の引下げが奏効し、増収率の割には大幅な増益を達成」等の表現が散見される。上記の式から分かる通り、損益分岐点売上高を引下げるには固定費を削減するか、限界利益率を上げるかの二つのファクターしかない。企業が収益体質を強化する際の妥当性確認では狭義には当ベクトルに沿ったものか否かを確認することがスタート台となる。多くの企業リストラが人件費(固定費)削減を中心に据える所以である。では、本当に人件費は固定費であろうか。次に、固定費及び変動費の定義を考えてみたい。

【固定費】

一般的且つ正確な定義では、売上の増減に影響を受けない固定的(一定の)費用を云う。では、先ほどの人件費は真正に固定費であるか否か。その答えはPartly Yes, Partly No.である。常用雇用の社員の給与は固定費だが、繁閑の程度に合せて雇い入れるパート・アルバイトの給与は変動費と見做すことが可能。減価償却費は期間対応設備費であるから固定費だが、償却期間は短いが、償却後も使用可能な機械では、固定費である減価償却費が跛行することもあり得る。要は、実態に即して判定をすべきと云うのが抜け目ない答えであり、その前提を意識しつつ、固定費の一般例を下記に示す。

 (1) 人件費、資本費(減価償却費、賃借料・リース料)
 (2) 変動費に見做せない販管費(租税公課、接待費)
 (3) 経常損益のケースでの支払利息

【変動費】

売上の多寡に比例して変動する費用としては、原材料、商品仕入原価、外注加工費、荷造運搬費、販売手数料等があるが、これも実態に見合わせて判断をすることが望ましい。且つ、変動費を見る上では各費用の売上高比を掴むことが重要となる。原材料の売上高比が高まるのは、自らが値下げをしたか、原材料の仕入れ値が上がったかを示す。変動費の各費目が総じて一定割合で変化する場合は価格が変ったのであり、特定変動費の構成のみが変わる際は、その費目に理由があると云うことになる。

【まとめ】

極めて基本的な損益分岐点分析であるが、視点を変えて見ると案外有効な分析ツールとなり得る。有効な固定費・変動費への仕分を前提に、全体の損益分岐点分析表を次のように加工することで新たな着眼点を見出せることも多い。

■ 小売業の収益性を固定費の時系列比較で確認
  • 売り場面積で損益分岐点分析表を除す(割る)
  • 2当り固定費(人件費、店舗設備費の減価償却費等)の重み推移で収益力向上の状況を確認

サービス業であれば、一人当り固定費でチェックすることで同様な分析が可能であり、基本を確認する中で分析の幅を増すことも、また可能となる。