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第4回 定量分析の三種の神器 |審査チェックポイント[銀行員ドットコム]

企業審査を進める上で必要な「定性評価」「定量分析」の企業ステージ毎の然り方、定性評価を行う上での着眼点及び定量分析に取りかかる際に念頭に置くべき「財務諸表を読む三原則」を前号までに述べて来た。本号では既述の三原則に基づき財務諸表を読み、分析を始める際の基礎事項について概説をすることとしたい。今回の内容は金融不良債権の発生とその対応の中で行政当局が進めて来た資産査定と債務者区分の決定の業務、所謂、自己査定にて部分的に実施されている概念である。財務分析の対象となるB/S、P/L及びC/Fを実態貸借対照表(B/S)、実質期間損益(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)の考えで捉え、財務諸表を実態分析に近づける方策を説明することとしたい。

事業運営をデータ及び会計基準に基づき継続性を以て表記した資料が財務諸表であるが、資産や経費の計上方法の如何に依っては実態との乖離を生むリスクを内包している。無論、意図的に継続性を無視し過大にまたは過小に資産、収益並びに費用等を計上すれば、粉飾と云うことになる。

【実態貸借対照表(B/S)】

実態B/Sとは、会計基準を通常の範囲で保守的に適用し事業実態に即した見方にする方策であり、反復した表現で恐縮であるが、自己査定実務での実質自己資本の算出ロジックと同義の概念である。即ち、保有する資産を保守的に査定(時価評価)し、マイナス部分が発生した場合に資本を同等額控除する考え方であり、実態の資産(価値)と負債及び資本の構成を明らかにする。企業としての存立基盤である資本(自己資本比率)の充分性の確認を行うことがその目的と云える。当然の理屈であるが、自己資本、同比率が高いと云う事実は事業損益が悪化した際の蓄えの多寡を示すものであり、増資完了直後のベンチャー企業の示す高率の自己資本比率が信用力に直結すると考えるのは早計である。加えて、価値の毀損した資産の保有状況、会計基準の設定と運営状況に関する経営姿勢等を確認出来ることは、その後の分析プロセスにも有益である。

【実質期間損益(P/L)】

実質期間損益(P/L)とは、一過性の収益や費用を控除し恒常的に発生する収益・費用に依る本来の個別企業の収支構造をいう。企業の各成長過程に応じて収支の変化があることは前提としつつも、個別の決算期にイレギュラーな収益や費用等が生じるものである。且つ、単に機械的に結果のみの決算数値で企業の財務分析を行うことは正鵠を告げるものでもない。実質期間損益は、その時点での公正な企業収益を掴むことで判断の振れを抑え、収益と資産のバランスを理解することを目的とする。但し、その事業特性上の理由から収支自体の振れを内在化している業種もあり、その場合には振れの要因とその他の安定部分を区分けして確認する等の工夫が必要である。具体的には、短期間で償却する資産(レンタルビデオ、DVD、成型用金型等)を有する企業で同償却資産の投入が跛行する場合、減価償却費の振れが大きく留意が必要である。

【キャッシュフロー計算書】

キャッシュフロー計算書と云う言葉自体に何ら新味はなく公知の内容である。但し、先に述べた実態貸借対照表及び実質期間損益と併せてキャッシュフロー計算書を読むことが重要である。キャッシュフロー(諸資金繰り)については、別途詳述する予定であり、本号ではその概説に留めたい。
尚、ここで云うキャッシュフローとは英米会計で使用する構成に類似し具体例は以下の通りである。

  • (1) 営業キャッシュフロー
       [内訳]
    損益要因:利益+減価償却費+引当金
    運転資金要因:通常の収支ずれ資金
    法人税等支払額
  • (2) 投資キャッシュフロー
       [内訳]
    固定資産投資
    その他資産投資
  • (3) フリーキャッシュフロー 〔(1)-(2)〕
  • (4) 財務キャッシュフロー
       [内訳]
    有利子金融負債増減
    増資等
  • (5) 総合収支尻 〔(3)+(4)〕

上記構造の効用は、(1)及び(2)のどの過程でキャッシュを得た・失った結果、(3)の状態を生じ、それを(4)でどのように扱い、(5)の結果を得たかを追える点にある。事業運営の巧拙と企業信用力が事業キャッシュ、投資及び調達状況から確認可能となる。