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第3回 定量分析のスタート台 |審査チェックポイント[銀行員ドットコム]

企業審査に於ける「定性評価」と「定量分析」との組み合わせは企業の成長ステージに応じて検討すべきであり、定性評価も企業自体の情報、企業の外部関係者からの評価、企業の属する業界としての課題や動向等の事業環境を念頭に、企業の成長過程に準じて各項目の影響度を推し量る必要があることを前二号で述べてきた。本号からは、金融機関として重要な定量分析に関する視点、具体的な方法論等をテーマ毎に、簡潔に、そのポイントを説明したい。

定量分析の対象としては、企業が作成する財務諸表、即ち貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)があり、その内容を読むことで始まる財務分析はその信憑性に依拠している。無論、データの真偽を確認することも一歩進んだ定量分析の効用ではあるが・・・。

さて、財務諸表の数値を読む、そこに表れる事業上の優位性や課題を確認し、分析に結び付けるには、どのような視点が必要とされるのであろうか。「急成長するベンチャー企業、安定的な事業推移に移行しつつある中堅企業及び事業運営や収益力が確立されている大企業と、対象となる企業は様々なステージの企業群があり、その属する業界も多岐に及ぶ。このような中で全てに共通な尺度を果たして見出し得るのか。」と云う疑問が浮かぶ人も多いだろう。しかし乍ら、この疑問への答えは「Yes」である。

多岐に亘る財務諸表の勘定科目を効率的に読み、且つ、その課題を確認するための根本的な姿勢は以下に述べる財務諸表を読む三原則(重要性の原則、継続性の原則、特殊性の原則)に要約される。

【重要性の原則】

最初から個々の勘定科目や内訳明細の内容を逐一確認することは、俗に云う「木を見て森を見ず」となって、当初から詳細に拘ることで効率性に劣り一部分に意識が偏り、反って本質を見誤る弊害を生み易い。重要性の原則とは、勘定(数値)の大きな勘定科目からその動き、理由を掴むことを云う。当然、大きな勘定科目が変動すれば、そのプラスマイナスの影響も著しい。内訳明細であっても大きな勘定の変動はその理由を確認することが比較的容易で対応の見極めもそれなりに可能である。当初から仔細に拘らず、全体の構成やその動きを把握することが財務分析の第一ステップである。

【継続性の原則】

定量分析は、勘定科目の動きを時系列的な推移の中で読み、その変化に事業上の強みや課題を見出す方法論である。企業のステージに依る相違はあるものの、前期と当期との比較では各勘定科目の構成に大幅な変動が生ずることは一般的には少ないと考えられる。継続性の原則とは、勘定科目を期毎に比較した場合、その構成の継続性に留意して数値を読み、継続性が断たれた場合には、その理由を具体的に確認することを云う。これ迄の事業運営とは異なる資産の取得(B/S)や費用の計上(P/L)には相応の訳がある筈であり、勘定の変化が事業に有益なのか否かを検討すべきである。但し、資産や費用の変化が先行投資的な意味合いを持つ場合も想定され、変化の趣旨を確認し、その後の推移を期を追って確認することも必要である。

【特殊性の原則】

財務諸表に表れる勘定科目は事業の種別に依って特徴があるが、大枠では継続して使用される科目がその大宗を占める。逆にこれ迄使われなかった新たな勘定科目が出て来る場合は従来の事業展開、業務運営と異なる事象が起きていることを意味すると解釈すべきである。特殊性の原則とは、既存の財務諸表の勘定科目と異なるものが確認された場合には、その発生理由を事業運営の中で確かめることを云う。加えて、特殊な勘定科目の外に、所謂、雑勘定と呼ばれる諸科目、即ち「仮払○○」、「仮受○○」、「未払○○」、「未収○○」等が確認される場合にも留意が必要である。当然ではあるが、これらの科目は何らかの理由で勘定処理が未了となっている事実を表しており、その発生がイレギュラーで且つ未完了であることから、発生理由も特異であると云える。尚、即断は慎むべきとは思うが、粉飾の前兆を表わす場合も想像され留意が必要である。

【まとめ】

財務分析、定量分析のスタート台は、財務諸表を効率的に、且つ的確に読むことである。対象とする企業群の多種多様な業種と成長ステージに対応する勘定科目と内訳明細を意思を持って読み把握することはなかなか難しい。然しながら、上述の三原則を念頭に大枠を捉え、事業推移と表裏を構成する各数値の継続性を踏まえ、特殊性の理由を理解し判断する姿勢が定量分析のドアオープナー、であり、企業財務の理解へと導く途である。