第6回 定量分析の三種のツール -その2-
財務分析に関する基本概念、財務諸表の確認姿勢についての三原則、損益分岐点分析と付加価値分析の留意事項等についての理解は深めて頂いたと考えている。本号では財務分析の方策としては特に注目されているキャッシュフローについて、その基本的な考え方を説明したい。
一言にキャッシュフローと云っても様々であり、正確な理解には対象とするキャッシュフローの定義が必要である。本号の対象として取上げるのは、普遍的な概念では「資金移動表」、昨今のテーマでは証券分析にて採用されている「キャッシュフロー」の形式を指す。
【キャッシュフローが分れば企業が分る】
キャッシュフローには企業業績、事業姿勢及び企業の信用力が表示されていると云っても過言ではない。基本的なフローを見てみたい。
(1) 営業キャッシュフロー(C/F)
・ 損益要因(当期利益、減価償却、引当金等)
・ 運転資金要因(売掛金、在庫、買掛金等)
・ 法人税支払額
(2) 投資キャッシュフロー(C/F)
・ 事業資産投資(固定資産等)
・ その他投融資(有価証券投資等)
(3) フリーキャッシュフロー(FCF)
・ 営業C/Fと投資C/Fとの差 〔(1)-(2)〕
(4) 財務キャッシュフロー(C/F)
・ 有利子金融負債の増減
・ 増資
(5) 総合収支尻
・ FCFと財務C/Fの合計
- 営業C/Fは損益、運転及び税金の3項目で構成され、損益の安定度、運転資金の跛行性有無を確認することで対象企業の業績が安定的か否か、伸びている否かの判断が可能となる。
- 投資C/Fでは、どの程度の頻度と規模で、どの事業資産に投資しているかを確認でき、事業としての必要資金の特徴を知る手段となる。
- FCFでは営業C/Fの実態を踏まえて、どのような投資を実施したかが表れており、経営判断や企業の置かれた環境が伺われる。
- 財務C/Fは、FCFまでの流れを受けて資金調達を行う際に、株式に依るのか、借入の場合は資金使途に応じた調達が出来ているか否かに応じて金融機関が対象企業の信用力をどう判断しているかを知り得る手掛りとなる。具体的には、固定資産を短期借入金で賄っている場合は期限の利益を付与されないレベルの信用力であるとのケースも多い。
- 総合収支尻に於いては、企業活動と資金調達の全フローを経過して資金が余剰となったか否かで今後の資金繰りの改善・悪化度合いや総合的な企業の信用状況を判断する要素となり得る。
【資金繰りをつけると云うこと】
具体的には、次のようなキャッシュフローをどう読むかが財務分析の上での作業となる。
(1)営業C/F | 損益 | 税前当期利益 | 83 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 54 | ||
引当金 | 20 | ||
運転 | 売掛金 | ▲178 | |
棚卸資産 | 89 | ||
買入債務 | 92 | ||
(2)投資C/F | 有形固定資産 | ▲226 | |
投資有価証券 | 43 | ||
(3)FCF | ▲23 | ||
(4)財務C/F | 短期借入金 | ▲50 | |
長期借入金 | 75 | ||
(5)総合収支尻 | 2 |
第一に、損益要因は157と先ず先ずの状況。売掛金はそれを上回る178の増加である為、棚卸資産圧縮と買入債務の繰回しで相殺。更に、事業用資産としての226の必要資金は損益要因だけでは賄えず、投資有価証券からの回収43で一部を補う一方、最終尻は一部短期借入金の長転と融資純増25で資金収支を吻合した。
以上のように、キャッシュフローとは読むものであり、企業が何処で資金繰りをつけているのかを知ることが重要である。敢えて付言すれば、事業には山谷や思惑外れは当然あり得るのだが、その際に如何にして資金の繰回しが出来ているのかが財務部門、更には経営者の経営力に依るものと考えられるのではないか。なお、当然ではあるが、上記のような資金繰り評価は単年度では不完全な場合も多く、予て説明した継続性、特殊性の原則に当て嵌めて検討することが望ましいことは云うまでもない。
【業種、資金特性に対する補完策の必要性】
資金移動表的なキャッシュフロー分析、殊に「資金繰りをつける」と云う点を述べてきたが、一般には必要な資金を銀行から調達することとなる。この場合に資金使途、換言すれば、返済資金を回収するまでに要する期間の長短に応じた調達が出来ているかが、新たな観点として重要となる。長期に亘り事業に供し、その運用から得られる利益が返済原資となるのであれば、長期(設備)資金として借入れるべきであり、販売に依る回収に1年数ヶ月を要すマンションディベロッパーの土地仕入れ資金が確かに期間対応で借入れられているか等の確認が必要となる。斯かる資金特性・需要に応じたキャッシュの流れ並びに妥当性を確認する方法論が資金運用表である。次号で、その活用法について説明したい。