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3.欧州危機の対応策と今後の展開

著者:リッキービジネスソリューション株式会社 取締役 市島 慎ニ

3-2 実行されてきた対応策

では、今回はこのような危機に対して実行されてきた対応策についてお話しします。

まずECB(ヨーロッパ中央銀行)ですが、域内銀行に対して大量の流動性供給をしてきました。金額は1兆ユーロ(100兆円規模です)で当初はその半分ぐらいで始まり、融通する資金の返済期間も一年以内だったものを倍増し、さらに3年物の資金を大量に放出する事にして、現在に至ってます。
それと同時に、ECBによる問題国の国債の買い入れを行って来ました。これはドラギ新総裁の手腕によるところが大きいでしょう。さらに銀行の預金準備率も引き下げ、マネタリーベースの増加を図ってきました。
次にESM (European Stability Mechanism)を5000億ユーロ(50兆円)規模で2012年7月設立の計画です。この資金は銀行救済、問題国国債買い上げなどに使われると思われます。
第三にEFSF(European Stability Facility) の立ち上げで民間資金の活用というか、参加を前提に、根っこのところは欧州各国の保証をつけ民間は安全と思われる上位債権(シニア-ポジション)のところを貸し付けるといった構造で(以前お話ししたようなCDOとかと同じ構造ですね)、日本政府も金貸しを迫られOKしましたね。これの規模は4400億ユーロで(40兆円プラス)、ESMが本格稼働出来るまでの暫定措置と言うことになってます。このお金も銀行対策、国債買い支え資金でしょう。

次に最も当たり前で、かつ難しいのが最近よく新聞などで取り上げられているEU各国に求められる財政統合へのより厳しい財政規律の縛りです。これはドイツ主導でメルケル首相、フランスの前の大統領だったサルコジさんが応援団でメルコジと揶揄されてましたが、オランドさんが大統領選に勝って若干様子が、規律一辺倒ではなくなった雰囲気になりましたね。しかし、まだまだドイツの態度は変わりません。
最後にIMFに対しユーロ圏資金援助をお願いするという事です。これに対してアメリカは批判的で、そもそもIMFは途上国などのBP(balance of payments)問題、即ち国際収支問題解決のための組織であって、先進諸国の国内問題のためにあるのではないという基本的立場からと言えるでしょう。

それもそうで、いわば日本がバブル崩壊後金融機関を中心とする不良債権問題をかかえ、いわゆるシステミックリスクに対しどのように対応するかというときIMFに支援を頼むのか?という状況に似てますよね。日本は当然自分の事として、時間がかかったものの、公的資金注入などを柱に略10年かけて国内で解決してきたのです。EUだって国債通貨を発行する大国、大人の国なのですから…ちょっと勘弁して欲しいと思うのも当然といえば当然ですよね。

今は、自助努力をして欲しいという方向で物を考えると、ユーロ圏共同債の発行への基盤作りをするべきで,実際それはじわじわ行われていると思います。共同債というのは、ユーロ建ての国債を各国単位で別々に発行するのではなく、ユーロ圏諸国による保証(連帯保証でしょうか)の裏付けをつけてあたかも一国の国債といった形で発行することです。日本に当てはめれば、東京都債があったり、北海道債があったりするのをやめて共通にしようという事です。それぞれ信用力が違うので発行条件に差が出てくるので、強いところは損するし、弱いところは助けられるという結果になる訳です。
従ってドイツは反対だし、弱いところはサンキューという事でしょう。しかしこれを実現すると国債発行に関し他国の干渉が、即ち財務規律の締め付けが厳しくなり思うように発行できないというマイナスがあるでしょう。一国一通貨から言えばこんな事当たり前で、財政統合という事と同義でしょう。
従って、メルケルさんが言ってるような財政規律重視の路線を突き詰めればユーロ圏共同債に行き着かなければ理屈が成り立たないと思いますが、メルケルさん共同債には断固反対しています。これはドイツ国内選挙事情あってのことと思いますが…(メルケルさん国内では負け続け、国民の説得は出来ないという問題がありますね。)

これで実行されてきた対応策を終了します。 次回は第3章「欧州危機」の最後、「行き着くところは?」をお話しして第3章を修了とします。