3.欧州危機の対応策と今後の展開
3-3 行き着くところは?
今回は第3章「欧州危機の対応策と今後の展開」の最後、「行き着くところは?」の話をします。これは最近新聞、テレビなどでいろいろ話されていますが、私はその時その時の起こったこと、ないし起こりつつあることから少し距離をあけて、今までお話ししてきたこととの関連性で全体の流れ、それから理論的な考え方を軸に、一歩踏み込んだ発言をするつもりです。
まず、いきなりテーマから行きますと、第1章、2章でグローバリズムの事を取り上げましたが、全体の流れから行くと"グローバリズム"の反転が起きつつあるということだと思います。アメリカを始め諸外国が自国の雇用を守るためなりふり構わず突進して来ていることをしっかり想定せねばなりません。またユーロ地域は通貨ユーロが解体されず、さらに欧州共同体が当初の理念実現に向かって進めるか、即ち財政統合も含めた形で進化出来るかが問われており、胸突き八丁のところです。
欧州共同体を巡る現在の大方針、道筋はいわばメルケル路線で、財政規律の厳格化、財政統合への前進を通じてユーロを守りきり、銀行不良債権問題や資金引き出し(キャピタルフライト)を中心とする金融危機を公的資金注入でしのいで何とかヨーロッパ経済沈没を回避しようと言うことです。これには域内南北問題なども財政トランスランスファーを通じて先鋭化させないなどの措置を講じる必要があるでしょう。 このような方針によるEMU維持、欧州危機回避には相当の「痛み」を伴い、たとえば問題国への厳しい締め付け、問題国内のデフレ深更、マイナス成長、社会不安、極度の失業問題など深刻な状況に立ちいたる可能性大です。これらが多重的に重なり、域内全体のデフレ、マイナス成長へと繋がる可能性大いにありますね。この場合には、各国の税収が相当減少し(日本もそのような状況にあることを認識して下さい)なおいっそうの深刻化、ソブリン問題へ火種が飛ぶ事もありです。現状では、スペインが取りざたされているのでなかなかやっかいですが、やはりドイツ国民が太っ腹になって、ECB、ECM等を通じての他国への支援を躊躇しないことが、こういったまずいシナリオへの展開を阻止する唯一の頼みかも知れません。付言すると、この前も解説したユーロ共同債の発行についてもドイツが賛成に廻らないと、そもそもの財政統合と矛盾するのでダメですよね。
いずれにせよ世界全体の潮流は、世界的に失業問題を抱えながら、(ごく最近までの日本のように)欧州銀行の抱える問題債権(CDOサブプライム関連、不動産、南欧国債)処理を進めなくてはならない訳で、米国のごとく、国内生産回帰、輸出倍増計画などぶち上げている状況下、ユーロ圏も同様な問題を抱え域内輸出競争力の増進を図る必要性に駆られているわけです。このような状況から冒頭で申し上げた「グローバリズム」の反転が起こりつつあると言ったわけです。 先程言ったようなメルケル路線が成功するためのハードルは相当高く、たとえば欧州共同債発行、相当多額の財政トランスファー、他民族、他文化共生主義への批判=極右などの抑制などを実現せねばなりません。それは、現実的に起こりそうもなくその反対が起こりつつあるのが現実だと思います。又、通貨調整手段のない国の金融、財政政策には限界が大きいことは第○○章でお話しした通りですので思いだして下さい。
ここで通貨についてふれておきましょう。このデフレの恐怖、雇用問題の深刻化しつつある世界情勢下では、各国は、明らかに通貨切り下げ方向は歓迎でしょう。しかし過去の(1928年大恐慌)教訓から切り下げ競争は慎むと思われますが、日本がいつまでもデフレ状況から脱却する気配を見せなければ再度円高方向へ圧力がかかって来るものと考えられます。(実質金利差の積み上げで、70円台まで円高進行と考えるのが妥当?この話は次章でします)。これが持続すると、日本沈没、生産の空洞化、貿易収支赤字継続、所得収支減少などから経常収支ダメになり、ヘッジファンドの餌食になる…などが冗談でなく起こるでしょう。そうなると円高どころではなく深刻な不況と、通貨切り下げが起こり、輸入財の価格は円ベースで高騰し国民生活は悲惨な事にある可能性ありますよ。日本はデフレを脱却し、豊富な生産能力を維持し、将来の健全な持続可能な成長を確保する方策を必死で模索し、実行する事が肝要です。このことは次章でお話ししたと思います。 この章の最後に申し述べて起きます。
世界的経済政策課題は、雇用吸収力アップ、即ち製造業の育成(今やアメリカでさえブーメランの様にこの現象が激しく興ってます)、工業生産物(最終製品というより中間生産物、資本財など日本の得意とする物に注目して)の輸出促進なのです!