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東京の情報を地方へ!~地方銀行の東京支店の役割が変わる~

リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

地方銀行に求められる原点回帰

不良債権問題の発生後、地方銀行は、いかにして収益を上げて財務基盤を強化するかが大きな課題となり、収益の拡大を重視するようになりました。しかし、日本銀行のマイナス金利政策や地域における人口減少・高齢化の進展により、地方銀行を取り巻く環境は厳しさを増しており、資金・役務の双方において収益を上げにくくなってきています。

そうした状況下で、地方銀行は地元企業の経営課題の解決、成長支援、事業承継への関与などによって、地域経済を活性化させるという本来の役割に『原点回帰』する必要があります。

変わる東京支店の役割

ところで、地方銀行のほとんどが東京支店を持っています。マイナス金利政策導入以前には、東京支店は利鞘は少ないけれども大手企業に対して貸出を行い、貸出の残高を稼ぐと共に、長短金利差を利用して資金収益を稼ぐという役割を果たしていました。

しかし、マイナス金利政策導入された今、低スプレッドで大手企業に貸しても、利益が出せなくなっています。

それでは、東京支店は今後どのような役割を果たしていけばよいのでしょうか。

私は、これからの地方銀行の東京支店の役割は、「東京における情報収集」がより重要になってくると思います。決して、東京が地方に対して優位にあるというわけではありませんが、東京には経営者が求める「情報」が溢れているからです。

東京の大手企業と地元企業のビジネスマッチング

東京には、大手企業や外資系企業、ベンチャー企業、大学や研究機関、中央官庁が集積しています。大手企業は、成長が期待される新規事業分野の研究を積極的に進めています。IOT、クラウド、人工知能(AI)、自動走行自動車、ロボット、水素電池車、ヘルスケア、再生医療、フィンテックなどです。

地方銀行の東京支店の職員は、積極的に大手企業や研究機関、中央官庁に出向いて、次世代成長分野の情報収集を行い、地元の企業に情報提供をしていくことが求められています。逆に、大手企業も地方の技術力を持った、ユニークな中小企業との出会いを求めています。

地域食品の販路としての東京マーケット

今も人口が増え続けている東京や首都圏は、大きな購買力を持っています。

「良いものにはお金を払う」という消費者意識もあり、例えば、地元では5 千円の松葉ガニも東京築地に持ってくると3 万円で売れる、とある県の知事が言っていました。

かつては「地産地消」と言われていました。それを否定する訳ではありませんが、地方において人口減少・高齢化が進む中、商品の価値を認めてお金を払ってくれるのは東京の消費者であると思います。利益を出して事業を発展させるからこそ、雇用を増やすことができるのです。

百貨店や高級スーパー、ホテルや高級外食産業へ、地域の食材や食品を紹介することも、地方銀行の東京支店の役割として大切なものになってきています。そのためにはバイヤーとのネットワーク作りが必要です。

地方銀行と連携した弊社の取り組みをご紹介します。弊社ではバイヤー営業チームが中心となって地方銀行のバイヤーネットワーク作りのお手伝いをしています。

東京と地方との情報仲介の具体例
①地方銀行フードセレクション

全国の有力地方銀行が自信を持っておすすめする「地方の『安心・安全・おいしい』食材を紹介する」商談会。2015年は参加銀行41行、出展社585社、食品担当バイヤーは1万人以上が来場しました。バイヤーの反応を銀行担当者が直接聞くことで、自行が担当する出展社の強みや弱み、東京のニーズを知り、よりきめ細かいコンサルティングにつながっています。

②地方からの贈り物

地方銀行18行の取引先350社の食品を掲載したカタログ。参加銀行の支店に「地方からの贈り物カタログ」を置き、地域を超えて地域食品の売上増加を目指しています。大手食品商社のバイヤーから、本カタログに掲載されている企業の紹介を依頼されることも度々あります。

東京と地元をいかに連動させるか

また、これからは観光や農業などに注目すべきです。インバウンドは去年約2,000 万人に到達しましたが、その多くが東京を訪れています。この東京への観光客をどのように回遊させるかも、東京支店としては考えていく必要があります。

東京で利益を出して事業を発展させると述べましたが、東京で商品を販売することは観光にもつながります。鳥取の食品を食べたら「今度、鳥取県に行ってみようか」と思いますし、その地域に行かないと得られないものをアピールすることもできます。

一方で、東京で流行ると、全国でも流行ることが多々あります。「東京で売れている」ものには「PR」力があり、他の地方に持っていった時に売りやすいということもあります。

また、東京で売るとなると競争が激しいので、パッケージなどを工夫します。弊社でもお菓子のお土産物などをいただきますが、一度東京に出てきているメーカーはパッケージが素敵なことが多いです。

金融機関は「金融機能を持った情報仲介業」

これからは良いものを作っていれば売れるという時代ではなく、異業種の人が集まって知恵を出し合い、ビジネスを作り出していく時代です。

最初にも述べましたが、東京には、大手企業や外資系企業、ベンチャー企業、大学や研究機関、中央官庁が集積しています。地方銀行の東京支店の職員は、東京で勤務しているということを最大限に活用すべきです。

2006年に私は『経営者の信頼を勝ち得るために』という書籍を発刊し、「金融機関というのは、金融機能を持った情報仲介業である」と書きました。

「東京と地方との情報仲介機能」を発揮することが地方銀行の東京支店に求められています。

東京での情報収集力を強化し、地域経済の活性化に貢献していただきたいと思っています。

※金融機関ドットヨム24号22ページに記事が掲載されています。