金融機関も担当者も「強みと専門性」をもて!
①「顧客に目を向けた」渉外活動を
まず、金融機関職員一人ひとりが顧客企業のために何ができるかを親身になって考える姿勢が重要です。企業経営者は元来用心深いので、相手に対してすべての情報を出したり悩みをさらけ出したりはしません。「ちょっと困っているのだが…」ということを小出しにし、相手の能力やどれだけ親身に対応してくれる人か、すなわち「信用できる人かどうか」を見極めています。企業経営者は「この人に話せば有益な手助けをしてくれる」ということを認識して初めて次の情報を提供するのです。企業経営者の最初の小さな相談に対し、すぐに回答することで(ここではクイックレスポンスがとても重要。完璧に調べ上げて回答するよりも、早く回答することが大切です)、次第に高いレベルの問題や悩みを打ち明けられるようになります。その結果「この人は本当に信頼できて頼りになる」と思ってもらえるのです。
②情報に対する「感度」を高めよ
質の高い有益な情報を、できるだけ多く企業経営者に提供できるよう努めることも大切です。本来、金融機関職員は金融機関の幅広いネットワークを活用して、企業のために適切なソリューションを提案する役割を求められています。すなわち、各職員がそれぞれのネットワークを活用し、それを金融機関という組織のなかで網の目状に展開していく触媒的な役割を要求されているのであり、それを期待して企業経営者は金融機関にいろいろな投げかけをしてくるわけです。
たとえば、「○○事業について詳しいことを知りたい」という企業経営者からの投げかけに対し、金融機関の担当者が「わかりました。私の知り合いにその事業を専門的に研究されている方がいますので、一度ご紹介しましょう」、あるいは「支店には検索リストが整備されているので、支店に戻って適切な方をリストアップしてみますよ」と具体的に対応すれば、企業経営者は「この担当者は私の投げかけに対して期待通りの対応をしてくれた。やはり、この担当者と付き合っていてよかった」と思うに違いありません。
③「外向き」に変化、常にチャレンジ
企業経営者は変化に立ち向かい、海外に出かけ、ITを駆使して新しいビジネスモデルの構築に懸命に取り組んでいます。変化していく企業経営者をサポートするためには、金融機関職員も目を外に向け、積極的に新しいことにチャレンジしていかなければなりません。
④「情報」を整理し磨く
金融機関は何万、何十万の取引先をもっています。融資先にいたっては、その情報量は他の追随を許さないものがあります。会社の事業の仕組みや取引先だけでなく、企業経営者が何を悩んでいるか、また資産・負債、売り上げ・経費の内容まで把握しているのです。このように金融機関は「情報の塊」ですが、現状はその情報をうまく整理・分析できずに、「情報のるつぼ」と化しています。必要な情報を検索しようとしても、それは稟議書の中にだけ書かれており、支店の書架に眠っているのです。この情報を整理・分析することは非常に意義深いはずです。
⑤他の金融機関に負けない「強み」をもて
何か一つでもほかの金融機関の担当者に負けない「強み」をもちましょう。競争が激化し、事業リスクも大きい経済環境のもとで、企業経営者も「経営のプロ」でなければ勝ち組になることはできません。プロの企業経営者は専門性をもつ担当者しか相手にしません。中途半端な知識しかない担当者のアドバイスはむしろ危険だからです。担当者は幅広い分野のことを勉強しなければいけませんが、目標を決めて専門性を高める努力も必要です。もちろん、金融機関自体も企業経営者から選ばれるためには、ほかの金融機関に負けない「強みと専門性」をもたなければなりません。お客様や地域との接点を強化しながら顧客ニーズを的確にとらえ、強みを十分に発揮できる体制の構築が求められています。
⑥顧客企業に対する「スタンス」を明確に
顧客企業に対する「スタンス」を明確にしなければなりません。企業側は中長期的な視点から、本気で対応してくれる金融機関に取引を集約しようとしています。担当者がほとんど来社せず、お付き合いで少額の資金を借りているような金融機関は取引を解消されてしまいます。金融機関は、その企業と「本気で取引するか否か」のスタンスを明確にしなければいけませんし、攻めるのか引くのか、その判断をするためには、前向きな営業対応とともに「事業性評価能力」と「高い審査能力」が要求されます。金融機関職員は、これらの能力を常に磨き続けなければならないのです。
また、金融機関職員はもっと顧客企業の「事業内容」を知り、事業の流れを知るべきです。どのようにお客さまから受注をもらい、どのような会社から商品を仕入れ、製造し、販売するのか。代金決済はどんな条件で行い、外注や販売代理店をどれぐらいの割合で使っているのか。仕入れ価格や販売価格の決め方やセグメントごとの採算性、また逆境時の抵抗力などを知っておくべきなのです。そうしなければ、顧客企業の強み、弱みを知ることができませんし、事業内容の理解がなければ、たった一期赤字になっただけで、審査部へ取引先の持続性や成長性、リスクの大小を説明しきれず、貸出稟議を通すことができなくなり、将来の優良な貸出資産を失うということもありえるのです。
経営者の信頼を勝ち得るために―変化の時代における銀行員のコミュニケーション術
- 著 者:澁谷 耕一
- 初 版:2006/02/06
改訂版:2010/06/30 - 出版社:金融財政事情研究会
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