TOP > 記事・コラム > 事業性評価に基づく取引先の見方・支援の進め方

事業性評価に基づく取引先の見方・支援の進め方

リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

1.「事業性評価」に対する関心の高まり

最近、金融機関の方々とお話しすると、「事業性評価」というフレーズを頻繁に耳にします。

 「事業性評価」とは、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、取引先企業の事業内容や成長可能性などを適切に評価して行う融資のことです。ここでは、「事業性評価」が注目されるに至った背景、内容、その効果などを簡単に解説していきます。

2. 金融庁の監督・検査方針の変化

平成26年9月、「金融モニタリング基本方針(平成26 事務年度)」が金融庁より発表されました。金融当局の金融機関ヘの監督・検査内容は、前年(平成25 事務年度)を踏襲し、成長企業やリスケ企業に対する新規融資の対応状況の確認等に重点を置いています。中小企業向けの融資における「債務者区分」は金融機関が判定した内容を尊重することにし、従来、金融機関が躊躇していた業績のやや厳しい企業への融資を行いやすい土壌を整えることで、よりきめ細やかで円滑な資金供給を行うことを推進しているのです。この金融モニタリング基本方針の「監督・検査」の重点施策の1つに、「事業性評価」に基づく融資への取組み内容が挙げられているのです。

3.「事業性評価」の必要性

前述の通り、企業の実態を把握するためには「事業」を知ること(=事業性評価)が不可欠です。

しかしながら、金融機関が主に行っている企業分析は、「事業面」よりも「財務面」を中心とした分析に比重が置かれています。これは、金融機関で行われている「格付」が決算書に基づいた定量評価中心になっていることに起因しています。人によって評価基準が異なる定性評価では、一律の基準を定めにくいこともあり、ある意味仕方がないのです。

つまり、金融機関が企業を分析する際には、財務諸表(決算書)という「結果」に基づく分析に重きが置かれており、その原因である「事業」については、あまり踏み込んだ調査・分析が行われてこなかったとも言えます。

「財務分析」とは、直前複数年の損益状況と、決算日時点の資産状況を捉えた、ある一面における把握であり、過去の実績に対する評価であると言えます。企業は、(長短ありますが)過去何年間にも亘り様々な経営判断を行い、そして事業を営むことで現在に至っています。そして、今後も事業を積み重ねることで将来を築いていきます。よって、ある時点の決算数値のみをもって企業を判断しても、全体像を捉えているとは言い切れない面があります。

言い換えると、「ヒト」「モノ」「カネ」、最近は「情報」を含めた多面的な視点を持ち、過去、現在、そして将来の見通しまで捉えてこそ、初めて企業の実態が見えてきます。これが、金融庁の言う中長期的な視点を持った「事業性評価」であり、これに基づく適切な融資対応が求められているのです。

前置きが長くなりましたが、難しく考える必要はありません。例えば、対象先企業が製造業の場合、下記について一つずつ把握して行けば良いのです。

  • ・何を作っているのか?
  • ・どこから仕入れ、どこへ売っているのか?
  • ・どの程度(量) 作っているのか?
  • ・いくらで売っているのか?
  • ・どのくらい儲かっているのか?
  • ・何人で作り、何人で売っているのか?
  • ・過去にどういう経営判断を行ってきたのか?
  • ・今後、会社をどの様に経営して行こうとしているのか?
  • ・外部環境はどうか?
  • ・競合先は?
  • ・課題は何か?
  • ・自社の強みと弱みは何か?
  • ・今後の見通しは?

事業性評価のアプローチ(例)

業績が芳しくない企業の財務分析を行うと、大抵「あれ?」「何かおかしい」と思う項目があります。例えば、売上高は横這いであるのに売上原価は上昇しているとか、売上高は減収であるのに在庫は増加しているなどのケースがあります。こうした数値分析=「結果」から抽出した問題点と、事業上の課題=「原因」とは通常一致します。

この課題が生じる根本的な原因を、経営者と一緒に特定し、その解決策を考えていくことが今みなさんに求められていることであり、これが経営改善支援の根幹であると言えます。

4.「事業性評価」によるコンサルティング機能強化を!

近年、金融機関職員にはコンサルティング能力の向上が求められており、これは金融庁の「モニタリング基本方針」にも明記されています。そして、金融庁はコンサルティング機能を以下の3つの場面に分類しています。

  1. ①日常業務や貸付条件の変更時に企業の経営課題を把握する
  2. ②具体的なソリューション(解決策) を提案し、経営改善計画の策定を支援する
  3. ③継続的なモニタリングや経営相談を通じて企業自身の主体的な取組みを後押しする

つまり、これからは財務面=「結果」の指摘だけではなく、事業面=「原因」を正確に捉えた上で企業の方向性を示し、サポートしていくことが、金融機関職員に求められているということです。そして、金融機関職員にとっても、事業を知ることで経営改善アドバイスがより有効となり、コンサルティング能力の向上にもつながってきます。また、企業の実態(「商品の製造・販売状況」「業務フロー」「社内管理体制」等)を見ることで、新たな経営改善の『ネタ』も発見出来るようになります。その結果、新規融資の開拓や、成長企業・産業の育成も可能となってきます。

こうして、金融機関が事業を知る=経営者の目線(の一部)を持ち、企業が抱える問題を深堀することで、債権者として的確な提言を行うことになり、経営者自身が経営改善に取り組む意識を芽生えさせることになるのです。

加えて、ある意味これがみなさんにとって最大のメリットかもしれませんが、金融機関職員として、企業を見る視野が格段に広がります。一社でも企業を深堀し、一つの見方/基本軸が出来ると、それ以降は他社の経営改善にも取り組みやすくなるものです。

こうして、企業の財務内容改善が進むことで、担当先が格付ランクアップし、さらに自行庫の体質が強化され、最終的に地域企業・経済の活性化につながります。こうした背景があるからこそ、事業内容を把握することが重視され、さらに経営改善支援に活かすことが求められているのです。

 下記の書籍は弊社のコンサルタントが執筆しました。お取引 先の経営改善支援に、ぜひご活用ください。
◆澁谷 耕一(しぶや こういち)
昭和29年北海道生まれ。一橋大学経済学部を卒業し、53年日本興 業銀行に入行。
平成14年同社を退職し、リッキービジネスソリュー ション株式会社を設立、代表取締役に就任。
全国の地方銀行とのネッ トワークを生かした「地方銀行フードセレクション」などの事業を 展開。
25 年より神奈川県政策顧問として地方行政に携わる。
経営者の信頼を勝ち得るために
経営者の信頼を勝ち得るために―変化の時代における銀行員のコミュニケーション術
著 者:澁谷 耕一
初 版:2015/03/12
出版社:事業性評価に基づく取引先の見方・支援の進め方
書評はこちらから